「講座代が20万円、30万円……」——リスキリングをためらう理由の筆頭は費用です。ところが公的制度を使うと、この前提は大きく変わります。たとえば厚生労働省の教育訓練給付金では、要件をすべて満たした場合、受講費用の最大80%(年間上限64万円)が支給されます。AIやクラウドの学び直しを「自腹では無理」とあきらめる前に、まず制度を知る価値は十分にあります。
ただし、制度は個人向け・企業向けを合わせて複数あり、給付率・上限・期限がそれぞれ異なります。対象も「指定された講座」に限られる場合が多く、制度改定も頻繁です。実際の利用前には、厚生労働省・ハローワーク・各事業の公式情報で最新の要件を確認することが前提になります。
読み終える頃には、教育訓練給付金・リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業・人材開発支援助成金という主要3制度の違いを整理でき、自分の立場ならどれから検討すべきかを立場別の分岐表で判断できるようになります。
リスキリングに使える主な制度|全体像
リスキリングを支援する公的制度は、大きく「個人が使える制度」と「企業が使える制度」の2系統に分かれます。まずは全体像を押さえましょう。
- 教育訓練給付金(個人向け):指定講座の受講費用の一部が支給される、厚生労働省の制度。
- リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業(個人向け):受講から転職までを一体支援する、経済産業省の事業。
- 人材開発支援助成金(企業向け):企業が従業員に訓練を実施した際に経費や賃金を助成する制度。
こうした制度があると知っても、「種類が多くて、自分はどれを使えるのか分からない」で手が止まる人は少なくありません。対象や条件は制度ごとに異なり、対象となる「指定講座」かどうかの確認も必要です。調べているうちに面倒になり、結局全額自己負担で申し込んでしまった——そんな本末転倒を避けるためにも、まず各制度の中身と自分に合うものを順に見極めていきます。なぜ今リスキリングが必要とされるのかはDX人材需要の最新動向|なぜ今リスキリングなのかでも解説しています。
教育訓練給付金|個人が資格講座に使える制度
個人がもっとも活用しやすいのが、厚生労働省の「教育訓練給付金」です。指定された講座を受講・修了すると、受講費用の一部が支給されます。レベルに応じて3種類があり、給付率と上限が異なります(2026年時点の目安)。
| 種類 | 給付率・上限 | 主な対象 |
|---|---|---|
| 専門実践教育訓練 | 受講費用の50%(年間上限40万円)。資格取得等をして修了後1年以内に就職すると70%(年間上限56万円)、さらに修了後の賃金が5%以上上昇すると最大80%(年間上限64万円)まで拡充 | IT・デジタル系の専門講座、第四次産業革命スキル習得講座など |
| 特定一般教育訓練 | 受講費用の40%(上限20万円)。資格取得+就職で50%(上限25万円) | 速やかな再就職・キャリア形成に資する講座 |
| 一般教育訓練 | 受講費用の20%(上限10万円) | 幅広い教育訓練講座 |
専門実践教育訓練は、要件を満たせば合計で大きな支援を受けられるのが魅力です。対象講座にはIT資格の対策講座やデジタル関連の講座が含まれます。ただし、給付の対象はあくまで「指定講座の受講費用」であり、資格の受験料そのものが対象とは限りません。また、受講開始前にキャリアコンサルティングなどの手続きが必要な場合もあるため、事前にハローワークで確認しておきましょう。
経産省「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」
在職中の方が転職も視野にスキルアップしたい場合に注目したいのが、経済産業省の「リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業」です。受講料の補助に加え、キャリア相談から転職支援まで一貫したサポートを受けられるのが特徴です。
補助は2段階に分かれています。講座の受講を修了すると受講費用の2分の1相当(上限40万円)、さらに実際に転職して1年間の継続就業が確認されると追加で5分の1相当(上限16万円)が支給され、合計で最大70%・56万円分の負担が軽減されます。対象分野にはAI・プログラミング・Webマーケティング・経理・DX戦略などが含まれ、本事業は令和8年度末(2027年3月末)まで継続される予定とされています。利用は採択された補助事業者を通じて行う形のため、講座探しも事業の公式サイトから始めるのが確実です。AI学習を始めるか迷っている方はAIの勉強はするべき?必要性と始め方も参考になります。
企業向け|人材開発支援助成金
従業員のリスキリングを進めたい企業には、厚生労働省の「人材開発支援助成金」があります。企業が従業員に訓練を実施した際、訓練の経費や訓練期間中の賃金の一部が助成される制度です。
リスキリング関連で特に注目されているのが「事業展開等リスキリング支援コース」です。新規事業の立ち上げやDX・GX推進に伴う訓練が対象で、中小企業の場合は訓練経費の75%が助成され、訓練期間中の賃金も1人1時間あたり960円が助成されます。このコースは令和8年度末までの期間限定とされており、訓練開始前の計画届の提出など事前手続きも必要なため、利用を検討する企業は早めに公式情報を確認してください。資格手当など社内での評価制度については資格手当が付くIT資格もあわせて参考になります。
あなたはどの制度から検討すべきか|立場別の分岐表
3つの制度は主な利用場面が異なるため、自分の立場と目的から絞り込めます。迷ったら次の表から入ってください。
| あなたの立場 | まず検討する制度 | チェックポイント |
|---|---|---|
| 在職中で、転職も視野に学びたい | リスキリングを通じたキャリアアップ支援事業 | キャリア相談から転職支援まで一体型。令和8年度末までの期間限定 |
| 在職中で、今の職場でキャリアアップしたい | 教育訓練給付金 | 雇用保険の加入期間などの支給要件と、受けたい講座が指定対象かを確認 |
| 離職中・転職活動中 | 教育訓練給付金 | 離職後の経過期間などの要件があるため、ハローワークで事前に相談 |
| 経営者・人事担当(従業員を育成したい) | 人材開発支援助成金 | 訓練開始前の計画届など事前手続きが必須。コースごとの期限にも注意 |
制度を使うときの注意点
補助金・助成金を活用する際は、次の点に注意しましょう。
- 対象は「指定講座」が中心:すべての学習が対象ではなく、制度ごとに指定された講座が対象になる。
- 条件・期限がある:雇用保険の加入期間や就職・賃金上昇などの要件、申請期限が定められている。
- 事前手続きが必要な場合がある:受講開始前の相談や届出が必要なケースがある。
- 必ず公式で最新確認を:制度は改定されるため、金額・対象・期限は公式情報で確認する。
よくある質問
IT資格やAIの勉強に補助金は使えますか?
使える場合があります。教育訓練給付金には、IT資格対策講座や第四次産業革命スキル習得講座などデジタル関連の指定講座が含まれます。経産省のキャリアアップ支援事業でもAI・プログラミングなどが対象分野です。ただし対象は指定講座に限られるため、利用前に対象かどうかを公式で確認しましょう。
個人と企業で使える制度は違いますか?
違います。個人は教育訓練給付金やリスキリングを通じたキャリアアップ支援事業を、企業は人材開発支援助成金を主に利用します。自分が個人として学ぶのか、企業として従業員を育成するのかで、使える制度と申請方法が変わります。
補助金はいつまで利用できますか?
制度によって期限が異なります。たとえば経産省のキャリアアップ支援事業は令和8年度末(2027年3月末)まで継続予定とされ、人材開発支援助成金の事業展開等リスキリング支援コースも令和8年度末までの期間限定です。期限や予算の状況で変わることがあるため、利用を考えたら早めに公式情報を確認するのが安心です。
まとめ
使える制度が分かっても、申請の手間を前に足踏みしてしまう——リスキリングを先送りにする本当の理由は、費用そのものよりこの一歩目であることが少なくありません。教育訓練給付金・キャリアアップ支援事業・人材開発支援助成金のどれに当たるかは立場別の分岐表で絞れるので、今日やることは「公式ページで対象講座を検索する」の一つだけで十分です。講座と並行して問題演習を回すなら、疑問点をその場でAIに確認できるSkillStackを組み合わせると、分からないまま先へ進む消化不良を防げます。せっかくの公的支援です。給付で費用を抑えながら、学び直しの初速を落とさず走り出しましょう。
